家族を守った愛犬シロとの思い出

それは、私がまだ幼稚園生だった頃の思い出です。私はまだその頃はど田舎の街で、家族と一軒家で暮らしていました。元々は父方の祖父の家だったそうですが、祖父が早くに亡くなり祖母は足腰が悪かったこともあり、私たち家族が祖母と同居するという形をとっていたんです。
本当にど田舎で、そばには山しかありませんでした。娯楽もなく、できるのはそのへんの原っぱや山の麓で遊ぶくらい。幼稚園以外は毎日暇で暇で仕方がありませんでした。

そんなある日、父が嬉しそうに家へ連れてきたのが雑種の子犬でした。近所の人が飼っている犬が子どもを産んだが育てられないということで、譲ってもらったそうです。白くて小さな、ぬいぐるみのような犬でした。私が名付けていいと言われ、そのまま名前は「シロ」にしました。
それからは毎日、ずっとずっとシロと一緒でした。外で遊ぶときも、家で過ごすときも。どんなときも常に側にシロがいました。数年の間で、子犬はあっという間に大きくなりました。私ももう小学生。友達も増えましたがシロと過ごす日々は変わらず、友達も交えて遊んだりすることもありました。

シロはとても温厚で、噛み付いたり無闇に吠えたりしない犬でした。
しかし一度だけ、シロがものすごい勢いで吠えたことがあったのです。それが、最初で最後でした。
私の田舎では、山から餌を探しに下りてきた野犬がよく畑の作物を荒らしたり、民家のペットを襲ったりすることがありました。
その日、私は家の中で宿題をしていました。早く済ませてシロと遊ぼうとしていたときです。「ウゥ!!ワンワンワン!!」と今までに聞いたことのない低く怖い唸り声と鳴き声が外から響いてきたのです。

母と私が驚いて外へ出てみると、柴犬ほどの大きさのうちのシロが、猪くらいはありそうな大きさの犬に向かって吠えて威嚇していたのです。そう、野犬がうちの庭へ入ろうとして、シロが吠え立てたのです。
野犬はだいぶ気性が荒く、人間や小型の犬なら簡単に噛み殺してしまうくらい獰猛です。私も母も少しひるんでしまいましたが、小さな体で野犬に立ちはだかり一生懸命吠え、我が家から敵を追い払おうとしてくれるシロの姿に、私は意を決して庭に置いてあった箒を手にとりました。母も、物干し竿で応戦しようとしていました。

その時、野犬がシロに向かって飛びかかりました。私は無我夢中で「やめてー!!」と大声で叫び、箒で追い払おうとしました。その騒ぎで近所の人も気づいて野犬を追い払うのを手助けしてくれて、なんとかシロも軽いケガだけですみました。
シロがあのとき立ち向かってくれなかったら、吠えて警戒してくれなかったら私や母は野犬に気づかず襲われて怪我をしていたかもしれません。家族を守ろうと立ち向かってくれた、小さなシロの大きな勇気に救われたことは今でも忘れられない思い出です。